祭竒洞

姑らく妄りに之を志す。

先日放送したさるustream放送についてのうろ覚え的覚書。

どこぞの例会でラジオ的なショーをした時のお話。
某氏メインのラジオでゲストのつもりで色々しゃべくってきました。

一応ラジオのテーマであったはずの「オカルト的小ネタ」は
全くと言っていいほど思いつかなかったので、
丑年にちなんで件のクダンの話をしたりしました。

まぁ件といえば広くて深くてズブズブなので突っ込みだすときりがないのですが、
そこはうろ覚えといい加減と知ったかぶりを駆使して適当な話を繰り広げたり。
その辺りのことを思い出しながら書いてみようと思います。
脚注は放送時にしゃべった内容の補足・訂正など。


まず件といえば
「人の顔に牛の体、生まれて数日で予言をして死んでしまう。
 しかしその予言は必ず当たる」
という妖怪。

瓦版などに描かれて、
「疫病流行るぜ。でも俺の絵姿もってれば大丈夫!」
とかそんな感じの予言をした、とされています。

そうした文言の前後に、
「人に牛と書いて件だから人の顔で牛の体」
だとか、
「昔から書状の最後に嘘偽りないという意味で
 "依って件の如し"と書くのはここから来ている」
だとか言った説明がつくのがお約束。

"依って件の如し"というフレーズはもともとあるので、
字面の冗談から生まれたメディア先行の妖怪じゃないか、とか、
いやいや、人面牛ミイラがあるんだから実態が先だろう、とか、
色んなこと言われていますね。

ustの方では白澤との関わりとかをつついてたのですが、長くなるうえに曖昧でまとまらないので略。
ちなみに白澤とは中国の神獣で多くの妖怪を知っており、絵を持ってるだけで災難よけになったりする奴。
場合によっては牛風味。
中国に源流のうち一本があるんじゃないかな、て辺りで。


で、予言する妖怪にはもう一つ別の系統もある訳で。
これが人魚もしくは人面魚です。
たとえば神社姫と言われる妖怪は首が人間、体が魚、頭に角。
これまた瓦版に登場。
ちなみに脇腹に目がついているのですが、これは白澤とも通じる特徴。*1
他にもアマビエ、あるいはアマビコと呼ばれるものなど。

ついでにその時にいたのが新潟某所で、当地に伝わる人魚のミイラを見学に行ったのでそんな話もしつつ。*2

一通りそんな話をしたところで、しゃべくりの相方である某氏からの質問。
1.何で人間の顔してるの?→人面じゃないと予言しゃべれないじゃん(多分)

2.それって畸形なんじゃね?と。→それは確かにそうです。
件のミイラは牛の畸形児ぽいし、
神社姫な人面魚はそういう魚かもしんない。*3

それを踏まえて某氏。
 西洋の「モンスター」はもともと畸形児を指し、デモンストレーションと同語源。
 見せる、あるいは見る、という意味で、神からの啓示を意味したとか。
 予言ではないが、神の威力を示すためにいたもの。
 件と一脈通ずる所があるような気がするんだがどうだろう。
とのこと。

そこで再び私の一人語りモード。

中国に天人相関説というものがあり。
時の政治が悪いと天がそれを感じて警告として災害を起こしたり謎の動物を出現させたりする、という考え方。
これがあまりにひどいと革命が起こる根拠となる。
逆に善政をしけば瑞祥として麒麟が出たり白い鳥が出たりする。

この説は日本にも輸入されるが、
問題は日本には代々テラヤンゴトナスなお人がいらっしゃるので、
どんな災害が起こってもどんな奴が出てもテラヤンが悔い改めて善政をしけばいいという話になってしまい、
革命の起こしようがない。ある意味出来レース
で、何か起こった時にやんごとない人の何が悪かったかを解釈する機構が律令国家には配備されていた。
ただし中世辺り以降、律令制度が機能しなくなるとこのシステムも機能しなくなる。*4

本来は異常の発生に対してその意味を解釈・判断するシステムがあったため、
異形の獣はその姿を現すだけで充分であり、自ら予言する必要はなかったのだが、
異常を解釈するシステムを持たない小さな共同体に対して、
異形の獣たちは自らに意味と権威を与えるため予言獣として喋り出さざるを得なかった。
……と、どこかで聞いた気がするが気のせいかもしれない、という尻すぼみ的結論。


ただ、ここで面白いのが、『漢書』「五行志」の記事。
前漢の歴史書漢書』の中の一巻で、起こった怪異・災害とその発生理由の考察が記されているのが「五行志」。

漢書五行志〔カンジョゴギョウシ〕 (東洋文庫)
その中のどこかに
「牛が人語を話した、これは時の皇帝がどうたらで政治が乱れたためである」*5
的なことが書いてあり、
その後に「牛の予言は必ず当たると言われている」と付け加えられていたこと。

他の動物がしゃべったという記事では確かこんなことは書かれていなかったので、
何故牛だけ特別扱いなのか気になったりしたりしました。
江戸時代登場のクダンと漢代の歴史書におよそ1800年の時代的隔たりがあるわけですが。
「絶対当たる牛の予言」ということで、そこに何らかのつながりがあったら面白いなぁ、
時代と国をつなぐような証拠が出てきたら楽しいなぁ、
などと妄想を繰り広げてみたりする次第。

そんな話をして満足したのでした。

追記:
あとで資料などを見直したところ、予言する奴は「本体でも絵でも見ると徐災招福」なパターンが多いようで。
予言しないけど見ると徐災招福という動物も多いようで。
なんかその辺の裾野の広がりとかもうちっと見直したいなぁ、と思ったり思わなかったり。

*1:と放送では言ったのですが、実際のところは人面魚限定でもなく。人面亀とかも予言をしていたはず。

*2:この新潟某所の人魚のミイラは、水木しげるの漫画「死人つき」のイメージソースのひとつ。ストーリー自体はゴーゴリの小説「ヴィイ」の翻案ですが。この漫画が気になっていたのでその満足した次第。

*3:あんとく様!海竜祭の夜 妖怪ハンター (ジャンプスーパーコミックス)

*4:実際この辺りの私の理解はテキトーにもほどがあるので、気になる方は『怪異学の技法』辺りを読むと良いはず。怪異学の技法

*5:正確なところは忘れました